唯一の涙
道程
ただ外にいるだけで汗が滲んでくるこの季節。
私たち野球部、最大のシーズンがやってきた。
今週末も強化合宿ということで、学校に泊り掛けで練習している。
いつものメニューと先生考案の新メニューに加えて、代々我が野球部に伝わっている特スペを熟す先輩達。
その顔は真剣そのもの。
皆の顔付きがいつもと違うのは、合宿の最終日に県大会があるから。
ーー県大会。
つまりは甲子園への切符を賭けた、大勝負ということ。
地域によっては地区予選もあるらしいけど、私達の住んでいる県下は出場校が少なく、地区予選はないらしい。
藤堂先生曰く、この県大会で5回勝てば甲子園らしい。
たった五回という人もいるし、五回も勝たなければ……という人だっている。
考え方は人それぞれだけど、私達の目指すものは、ただ一つ。
ーー甲子園ーー
高鳴る鼓動を、抑えきれないのは私だけじゃない。
スターティングメンバーに選ばれた彼らも、私と同じ顔してるから。
前までは夕食が終わった途端、我先にと休もうとするのに、今は誰よりも長く練習しようと外に出て行く者が後を絶たない。
そんな彼らを見て思うことがある。
【うちの野球部は、県下一の強豪校】なんて、口が裂けても言えない。
けれど、【うちの野球部は、県下一の練習をしている】なら、胸を張って言えるってこと。
この言葉に嘘は微塵もない。真実だ。
そう叫んでしまいたいぐらい、皆の努力が私に伝わってくるんだ。