唯一の涙

「…ふぅ」



紀衣を追い払う時に使えるな、これ。
私はまた、窓の外を眺めた。



何時もと変わらない、景色。



「……!」


ちょうど休憩中だったのか、一人の野球部員と眼があった……ような気がした。
気のせいだよね。だってここ三階だし、見えるわけない。



「ノックするぞーー、守備付けーー!!」



その人はクルリと身を翻すとグローブを持ってファーストに付いた。
実は私、野球部員の名前、全員知ってるんだよね。



今の人は二年の水野先輩。



バッティングセンスは部内でもピカイチ。
リーダーシップもあって努力家。野球部の次のキャプテンだって噂があるほどだ。



ピッチャーは三年の仁科先輩。


縦に落ちるカーブが得意で、コントロールもいい。
顔もイケメンで何人かファンの子がいたっけ。





< 8 / 161 >

この作品をシェア

pagetop