唯一の涙
『おめでとう、二人とも。なっちゃん、和歌ちゃん泣かせたら絶交だかんね‼』
蓮見先輩は綺麗すぎる笑顔で、私達を祝福してくれたんだ。
その時の蓮見先輩の笑顔が眩し過ぎて、蓮見先輩の言葉が嬉し過ぎて泣きそうになったのは、私だけの秘密。
「河原ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼‼‼‼‼」
グラウンドから藤堂先生の大声が飛んで来た。
耳を劈くほどの大音量に、吹奏楽部が楽しげに奏でていた曲のメロディーが消える。
「はーーい‼」
負けないくらいの声で返事をすると、先生の元へ駆け出した。
『蓮見先輩、吹奏楽部の皆さん、うちの先生が煩くてすみません』
と、心の中で謝りながらーーー。
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「ーーー準備はいいな……行くぞ」
三割増しの皺を眉間に刻んだ藤堂先生を先頭に、次々とバスに乗り込んでいく。
運転手さんに全員で挨拶すると、バスは動き出した。
試合会場までおよそ四十分。
短いようで長いこの四十分をどう過ごすかは、個人の自由だ。
この時ばかりは、口煩い藤堂先生も何も言わない。
音楽を聴く人、話し出す人、集中する人……。
「石神くぅん‼めっちゃ俺ドキドキすんねんけど、この胸の高鳴りどないしたらええのん⁉」
「気絶してなよ」
「んもう‼シュン君は今日も意地悪やなぁ〜‼でも大丈夫、照れ隠しって分かってるからねんっ‼」
「馬鹿な口って塞ぎたくならない?」
「ならん〜‼」
「マネージャー、針と糸」
「渡しませんよっ‼」
シュン君ーー基、石神 俊助先輩と白石 恵斗先輩はいつもの漫才で大会場まで行くようだ。
てか、此処に来てやっと二人の本名言った気がする……。