唯一の涙

ワイワイと騒ぐ二人は置いといて、私は隣の人を覗き見た。
隣の人は言わずもがな。



水野先輩だ。



「河原。いよいよだな」



「相手は去年うちと接戦だった学校ですよね?大丈夫、勝ちますよ」



何の根拠もない自信が、私の中にあった。
水野先輩はちらりと私の顔を見ると、笑って頷いた。



「最高の試合にしような」



「はいっ‼」



その会話を最後に、先輩は眼を閉じた。
寝ているわけじゃない。きっと集中してるんだ。



直感でそう思った。



先輩と私はどちらともなく、手を重ねる。
お互いの体温が、何よりも心を落ち着かせた。



********



「降りた奴から、各自ストレッチ。河原と……錦。お前たち二人は吹奏楽部と最後の打ち合わせをしておいてくれ」



「「「はいっ」」」



試合会場に着いた瞬間、私達に素早く指示を出していく藤堂先生。
先生が降りたのを確認すると、一斉に座席を立った。



「………」



どうしよう。
これは、どうするべきなんだろう。



皆がどんどんバスから降りて行く中、私は席を立てないでいた。
なぜなら……



「……先輩っ、速く行かないとっ……手…離して……」



先輩に手を掴まれたままだから。



「夏希〜?河原ちゃんも、降りひんの?」



「雷落とされるよ、藤堂先生に」



御最もな意見です、白石先輩、石神先輩。
でもね、立てないの。分かる?



先輩の手を引いても、先輩が手をはなすことはなかった。



それどころか、さっきよりも強く握られた。



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