唯一の涙
そんな中途半端な応援を受けているせいか、相手校の選手の動きが鈍い。
これは、イケる。
この試合、水野先輩たちなら、絶対勝てる‼
ピッチャーである仁科先輩の肩は絶好調のようで、次々とボールがミットに収まっていく。
三者凡退で、あっという間にチェンジだ。
1番の矢野先輩が、バッターボックスに入った。
それと同時に、ベンチから沢山の応援が飛ぶ。
声援を上乗せするかのように、けたたましいトランペットの音が試合会場を真っ二つに切り裂いた。
矢野先輩は基本的に器用なバッターで打率も良い。
横に変化するカーブが得意中の得意だ。
「「「ーーーよしっ‼」」」
鋭い打撃が右中間を裂いた。
ヒットだ。
「「「いいぞ、高梨ーー‼」」」
それに続くかのように、2番の高梨先輩が塁に出る。
次の打者はチームのムードメーカ、白石先輩。
打てる。
いや、白石先輩なら打つ。
試合の流れはこっちにある。
こんなに優勢な状況で、白石先輩が押されるわけないから。
ーーキンッ‼
「ナイスラン、白石ーー‼」
打球はそれほど飛ばなかったけど、自慢の俊足を生かして、見事塁に躍り出た。
大袈裟にガッツポーズをキメる白石先輩に、ベンチから笑いが生まれた。
1,2,3と此処まで来たら、次は……
「水野‼矢野をホームに帰せーーー‼‼」
水野先輩の打順だ。