唯一の涙
ワンアウト、三塁
一点先取のチャンスが、私の鼓動を速める。
ここで打順が回って来たのは、遊馬先輩。
長打力のある遊馬先輩。
バッティングセンスだって悪くないし、何よりキャリアが他の人達と違う。
小学生のとき、リトルでそこそこ活躍していたらしい。
遊馬先輩なら、絶対打つ。
「何でも良いから、水野を返せーー‼‼‼」
「遊馬ーーー‼‼」
7番、8番と自分に打順が回ってくるのを待つ先輩達が、声援を送る。
私もみんなの声にかき消されないよう、負けじと声を張った。
「打ってっーー遊馬先輩っ‼」
帰って来て、水野先輩……‼
遊馬先輩は声援に応えるかのように、初球に手を出した。
ーーガキンッ‼‼
「あっ⁉」
少し遅れたっ……。
これじゃ、捕られちゃう……‼‼
駄目だ、と視線を外しかけたとき、奇跡が起こった。
「あっ……」
打球が、セカンドとファーストの間を綺麗に擦り抜けたのだ。
「抜けたっ……‼⁉」
私がそう言うよりも速く、水野先輩と遊馬先輩は走り出す。
バックホーム。
先輩は迷うことなくホームベースへ滑り込んだ。
「セーフッ」
私達は同時にガッツポーズを取ると、水野先輩の元へと駆けて行った。