唯一の涙

決勝戦


「和歌ちゃん‼今日の試合、絶対勝ってねっ」



元気いっぱいの蓮見先輩の声と同時に、背中への強い衝撃が私を襲う。



「ひゃっ……‼‼⁉」



蓮見先輩…あなた、私に…容赦無く突進しましたね……。



「蓮見先輩も、熱中症対策は大丈夫ですか?」



痛む背中を摩りながらそう言うと、蓮見先輩は鼻を膨らませながら頷いた。
子供のようなキラキラとした眼に、私は半歩下がる。



「蓮見!音出しすっぞーー!」



いかにも爽やか系男子が、蓮見先輩目掛けて声を張る。
ピシッと着こなされた制服、綺麗に梳かされた黒髪。



校則違反とは無縁だろうこの人は一体……?



「はーいっ。あ……彼は真鍋君って言ってね、私と同じパートなんだぁ‼‼」



辺り一面に花を散らせながら、蓮見先輩は笑った。
先輩の言う通り、彼の手には銀色のトランペットが握られている。



「蓮見っ‼」



「ん〜、真鍋君ってば煩いっ‼今行くってっ〜〜‼‼」



「煩い⁉」



ちょっ……先輩方……。
こんな白昼堂々と口喧嘩しないで下さいよ。



ここ人結構居るし、地味に視線痛いんですけど……。
何よりも我慢ならないのは、私を挟んで喧嘩してることっ。



本っ当っに、勘弁して。



「真鍋君ってばきゃんきゃん喚いて子犬みたい‼‼でも、全然可愛くないんだからねっ」



「関係ないだろっ、俺は音出し始まるって言っただけだし?」



「分かってるって‼‼年寄り臭いから同じこと何回も言わないでよぉ」



「言わせてるのは、他でもない蓮見じゃん?」



「うーるーさーい‼‼」



でも……結構良いコンビ?
あの二人って…。



私は気配を殺して先輩達の元を離れると、背後から聞こえてくる二人の喧嘩に吹き出した。



喧嘩するほど仲が良い。



そんな二人の喧嘩は、後十分ほど続いていたとか……。





< 99 / 161 >

この作品をシェア

pagetop