永久にだきしめて(短編)
昼間の試合を思い出し、怒りに震えながら姫は王の寝室の扉を叩いた。
威厳のある声で「入れ」と告げられる。
「失礼いたします」
「なんだお前か。何の用だ」
「そろそろ昼間のような試合を止めていただきたいのです」
「……」
首を縦に振らないことはわかっていた。
対戦相手を国の兵として雇えばこの国は隣の大国に負けないくらいの軍事力を得ることができる。
観戦料を取ることで国費も潤い、国民もストレス発散となる。
王としては姫とフリップだけが不都合なのだ。
姫はもちろんそのことを了承していた。
「フリップとの仲は随分前から認めてくださっていたではないですか」
「そうだな。今も反対してないぞ」
「では、なぜ続けるのです」
「知ったことを」
ふ、と皮肉混じりに笑われて、姫は冷静でなくなった。
「今日の相手は人間とは思えませんでした。そんな男を次期国王になさるつもりで?」
「勝てば候補になるぞ」
「海賊が来た時もありましたね。その時も同じですか」
「国民に嘘はつかない」
「お父様は…っ、」
ずっと心に留めてきた言葉を口にした。
「わたくしがお母様に似ておらず、どこの国からも婿をもらえず、使い物にならないから、物のようにっ、扱うのですか」
――心があるのに。
涙を流しながら訴える娘を見て、さすがの王も何も返せなかった。
美しいお后様だった。けれども、姫を産んですぐに亡くなってしまった。
彼女以外に愛せる者などいなかった。いくら後継ぎが欲しくても他の女と交わる気にはなれなかった。
彼女が残したたったひとつの形見を大事にしようと思っていたのに自分はなんと愚かなことをしてしまったのだろうか。
「わかった。もう試合を組まない。近いうちにお前たちの婚約を発表しよう」
「お父様…! ありがとうございます」
頭を下げた姫の足元に涙が落ちていく。
これでもうフリップが傷つかないんだという安心感と、父親に見捨てられてないという安堵のためだ。
王はそんな娘の気持ちを感じ取ったのか後頭部を優しく撫でた。