俺と後輩と怪談と。





「約束、なんてしてましたっけ?」


なんて意地悪く微笑む後輩。



「生意気だぞ、後輩。」


すみません、といつもの調子で返ってくる。


「お詫びと言っては何ですが、ちゃんと“それ”祓いますから。」


そう言って楠木の足が向かうのは、北校舎だ。



また、ここか……。

と内心で溜息をついて、楠木の後ろをついて行く。



「今日はどうしたんですか、その人数。モテ期ですか?」
「そんなわけあるか。」


人生三回しかないと言われるモテ期をこんな所で使ってたまるか。


睨めば楠木は肩を竦めた。


「で、どこまで行くんだ?」
「昔、音楽室として使われていた教室です。ほら、あそこ。」


楠木が指した教室には“音楽室”の文字。



「ここでコイツら祓えんの?」
「いいえ。」


即答され、俺は不思議に首を傾げた。


「じゃあ何で来た?」
「ここに来たのはまた別件ですから。先輩に憑いているぐらいの霊なら……」


言いかけで、楠木の手が俺の方へ伸びてくる。


耳の横で、まるで埃を払うかのような動きをした。


手が止まる頃、耳元の騒々しさが一気に沈んだ。


「この程度で簡単に祓えますよ。」
「…………ちょっと待て。」



そこで気付いた。



「じゃあさ、この前俺が階段から落下する必要はなかったんじゃないか?」
「……………」


数秒の間があって、後輩は視線を俺から外した。


「さて、用を済ませましょうか。」
「おい。今明らかに視線逸らしただろう。」
「細かいことは気にしないでくださいよ。」



全然細かくない。と俺は思う。
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