俺と後輩と怪談と。
部屋の中は埃っぽい空気が充満していた。
楠木は気にするでもなく進んでいく。
彼が立ち止まったのは一台のピアノの前。
「これが七不思議の……」
「ええ、じゃあ先輩、弾いてみてください。」
ピアノに手をかけ、振り向いた後輩は言った。
「……ピアノなんて弾いたことない。それに」
指切り取られたらどうしてくれる。
「大丈夫ですよ。言ったじゃないですか、守るって。」
ね?と微笑んだ後輩。
どうしてだろうか?
何の根拠もないのに、彼なら本当に守ってくれるような気がして……
俺は渋々といった様子でピアノの前に座った。
埃のかぶったカバーを外す。
鍵盤は思いの外綺麗だった。
「……本当にピアノなんて弾いたことない。」
「大丈夫。ピアノを弾くのは先輩じゃないですから。」
意味深に笑った後輩。
首を傾げた俺の手を鍵盤上へ導く。
「誰も邪魔しません。思いのままに弾いてください。」
楠木の言葉を合図に、俺の手が勝手に動き始めた。