俺と後輩と怪談と。
俺の指が奏でるのは聴いたこともない曲で。
けれど迷うことなく指は鍵盤を滑る。
訳が分からなくて傍らに立つ楠木を見上げた。
彼は微笑んで、大丈夫とだけ言った。
俺は勝手に動く指を見つめた。
――楽しい。
「え…………」
声が聞こえた。
正確に言えば頭に響いた、と言った方がいいのかもしれない。
――ああ、楽しいわ。
女の歓喜の声。
その声で胸の奥で何かがじわりと広がるのを感じた。
何だ?この、感情……。
曲は止まることなく流れる。
最後の和音を指が奏でた。
――ありがとう。
「あ………」
指の動きが止まった。
同時に瞳から雫がこぼれた。
どうしてかは分からない。
嬉しくて悲しくて涙が流れた。
スッと横から手が伸びてきて、俺の涙を掬った。
「あてられちゃいましたか。」
困ったように笑う後輩を見上げた。
「今のは……」