俺と後輩と怪談と。
俺が落ち着くのを待ってから楠木は語り始めた。
――音楽室には昔亡くなったこの学校の女子生徒が住み憑いていました。
女子生徒は将来を期待されたピアニストで、毎日毎日放課後はピアノを練習していたそうです。
そんなある日、コンクールへ向かう途中の道で、彼女は事故に遭ってしまった。
相当悔しかったんでしょうね。
そのコンクールは学生生活の中で最後のものだったようですから。
強すぎた彼女の想いが、彼女をこの世に繋ぎ止めてしまった。
そして彼女はこの音楽室で奏でられるピアノの音色を聴いていた。
何年も、何年も………。
「けれど最近ではそれも無くなってしまった。立ち入る人すら居ないんですから。」
「じゃあさっきピアノを弾いたのは……」
「そうです。彼女、ですよ。」
そうか……。
さっき流れた涙は彼女の……。
「最後にピアノが弾けて満足そうでした。先輩のおかげです。」
「俺は何も……。と言うかお前でも良かったんじゃないか?」
「俺じゃダメなんですよ。」
楠木はまた困ったように笑った。
「何で?」
「俺は先輩みたいに憑かれやすくないので。」
「そういうもん?」
「そういうもんです。」
昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。
戻りましょう、という後輩の言葉で俺達は音楽室を出る。
「なぁ、あの七不思議だと指を切り取られるんじゃなかったか?」
「七不思議なんてものは、所詮噂にすぎませんよ。人が作り上げた虚像ですから。」
「そういうもん?」
「そういうもんです。」
後輩は肩を竦めて笑った。
――ありがとう。
もう一度聞こえた気がして振り返った。
そこには誰もいなかった。