俺と後輩と怪談と。


楠木は飛び交う机や椅子を避けながら、教室の隅へと向かう。


「怖がらないで」



楠木は立ち止まり、そっと両手をあげた。

その両手は何かを包み込むようで。


俺の目には見えないけど、きっと少女を優しく抱き締めたんだと思う。



「優男だねぇ。」



仙道が笑いながら言う。



「大丈夫、一人じゃない。」
「“本当に?”」


仙道の通訳だ。



「本当だよ。先に逝って待っていて。俺もちゃんと逝くから。」



え……


今、逝くって言わなかったか?


「“約束よ?”」
「うん、約束だ。」


ふわっと風が舞った。


俺は思わず、楠木に駆け寄って、制服を掴んだ。


「待て!逝くな!!」
「え………」


楠木は呆けた顔で振り返った。


教室は静まり返って、さっきまで宙を舞っていた机や椅子は床に転がっている。



「あの……先輩?」
「え、あ………」


俺は掴んでいた制服を離す。



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