俺と後輩と怪談と。



「く、楠木!」


俺は手を伸ばして走り出した。


掴まないと、あの手を。



じゃないと死んでしまう。



「歩夢先輩!」



強い力で引き戻される。


腕を掴んでいるのは仙道だ。


「離せよ!」


仙道を睨む。


「死ぬつもり?」
「だって楠木が…」


再び楠木の方を見れば、その姿はなかった。


………落ち、た?



「どうしよう……」


どうしよう…
だってこの高さから落ちたら絶対助からない。


今、目の前で、楠木が……



「どうしよう……どうしよう……」
「歩夢先輩、落ち着いて。」
「落ち着けるわけないだろ!?今、目の前で人が死んだんだぞ!!」



まくし立てる俺に対して、仙道は落ち着き払っている。


どうしてコイツはこんなにも平気な顔をしていられるんだ?



「死んでないよ、楠木くんは。」
「……ぇ」
「ちょっと違うか。彼は、彼はね。」



耳を塞ぎたかった。

続きは聞いちゃいけない気がしたから。



「彼は――すでに死んでいるんだよ。」



それは何かの呪文のように何度も頭の中で響いた。


何度も何度もこだました。



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