俺と後輩と怪談と。
上がってきた階段を、今度は下る。
途中、何気なく後ろを振り返った。
その瞬間、予想しなかった衝撃が身体にぶつかってきた。
そのまま俺はバランスを崩し、身体はろくな力も入らないまま、落下していく。
さっきと同じ、いや受け身さえ取れないから、さっき以上の痛みと衝撃を構えて目を閉じた。
でも、いつまで経っても衝撃なんて来ない。
身体は何かに支えられるように倒れない。
ゆっくり目を開けた。
目の前には、呆れたような後輩の顔。
「だから言ったでしょう。絶対に振り返っちゃダメですよって。」
あの言葉、まだ有効だったのか。
俺の身体は楠木の腕によって、転倒は免れたようだった。
「俺の反射神経が良くてよかったですね。」
楠木はクスクスと笑った。
「……祓ったんじゃなかったのか?」
「祓いましたよ。さっきの方はね。今のはまた別の方ですから。」
たくさん居るんですよ、ここは。
と言いながら楠木が見据えた先には、何もなかった。
でももしかしたら、楠木には何かが見えていたのかもしれない。
「それに先輩って霊をたぶらかす素質を持っているみたいですから。」
「……だから嬉しくない。」
「でしょうね。」
それはもう楽しそうに笑うから、頭を殴ってやろうかと思った。
「ああ、ほら、言った傍から」
と後輩の視線は、やっぱり俺の背中で。
途端に背中がグッと重くなった。
「………またかよ。」
俺はがくっと肩を落とす。
「まぁ、気を落とさないでくださいよ。これも何かの縁ですからね。」
後輩が俺の耳の横で何かを払う素振りをする。
フッと身体が軽くなる。
「守ってあげますよ、仕方がないから」
突然現れた後輩は、笑ってそう言った。
何とも奇妙な出会いだった。