昼下がりの科学準備室で




が、触れる程度で、すぐに唇は離れた。
唇が触れた瞬間、我に返ったのだ。


先生に、キス、してしまった・・・!

なに、やってるんだ私は・・・・。


物音を立てないように、後ずさる。
こんなことがバレたら・・・私・・・



「・・・・ん?誰?」



起きた・・・・!
ま、まずい!
どうしよう・・・・。

先生は目を擦りながら体を起こし、眉間にシワを寄せてこちらをじっと見つめている。

ああ、そっか・・・眼鏡・・・・

まだ私の手の上に、先生の、眼鏡が・・・。



「あ、あの・・・」


「ん・・・?山本・・・?」



こんなときに限って、声を出してしまうなんて、なんというタイミングの悪い声帯だ。
慌てて口を塞ぐも、時既に遅し・・・

先生は一歩ずつ、私に近付いてくる。

どうしよう・・・・



「俺の眼鏡、返して」



先生も、参考書の上の眼鏡がないことに気付き、私が犯人だと見破られてしまった。

これはさすがの先生でも、怒りそうだ。

いや、普通、寝てる間にキスなんてされたら、怒るどころじゃ済まない。

でも、先生が一歩、私に近付く度に、私の足も一歩、後ずさりしてしまう。
早く眼鏡を返さなきゃと思うのに、先生がいつもとはまた違う真剣な顔をして私に迫るから・・・・



「わっ・・・!」



足元まで気を配る余裕がなく、床に置いてあったゴミ箱につまづいてしまった。

よろける足でなんとか体勢を整えようとするも、立ち直ることができず、お尻から、床に転倒。



「いたたっ・・・・」



私の声とゴミ箱がひっくり返る音に反応した先生も、何事かとぼやける視界で私の元に更に近付いてくる。

私は、ぶつけたお尻が痛すぎて立ち上がることができず、座ったままで後退りを続けた。


トンッ



足の代わりに動かしていた腕が、背後で何かに当たる。
振り向くとそこには壁があって、それはもう私に逃げ場がないということを表していた。



< 12 / 20 >

この作品をシェア

pagetop