昼下がりの科学準備室で
先生、早く、何とか言ってください・・・。
そう、心の中で訴えた私の気持ちが通じたのか、「山本」と先生が私の名前を呼んだ。
「はい・・・・」
思わず、ぴしっと背筋を伸ばし、先生の顔を見てしまうのは、いつもの癖だ。
先生もきっと、そんな私の癖に気付いている。
だから、目が合ったとき、あんなふうに笑えるんだ。
「俺のこと、好きなんだ?」
よくそんなこと、照れもせず、落ち着いたトーンで言えたものだ。
でも、好きなのだから、否定はできない。
そんなふうにわざわざ聞くまでもない確認をされてしまうと、逆にこっちが恥ずかしくなってくる。
また、いつもの私に逆戻りだ。
黙ったまま、二度、こくりこくりと頷く。
先生は、ふっ、と気の抜けたような顔で笑った。
「そこはちゃんと、好きだって言ってくんねーんだ、」
「・・・えっ?」
「黙って頷いてちゃ、分かんない、ってこと。」
先生は、私の上に覆い被さるような体勢になって、「言ってくれたら俺も言うから」と私を見下ろした。
俺も言うって・・・どういう意味だろう。
もしかして、先生も私のこと・・・。
そんなの有り得ないけど、期待してしまう。
この数分の間に、いくつ寿命が縮んだか分からない。
先生が、たくさん、それはもう数え切れないくらい、色んな顔をするからだ。
先生が言おうとしてる言葉は気になるけど、そのためには私が先生に、好きって言わなきゃならないのか・・・。
想像するだけで、とてつもなく緊張する。
・・・・それはさすがに、恥ずかしすぎて、無理だ。
何とかしてこの状況から逃れることはできないものかと、再度背後を確認するものの、先生の手は私を逃すまいとして、ぴったり壁にくっついている。
でも、やっぱり、駄目か・・・・。
「山本香澄、余所見してないで、先生のいうことをちゃんと聞きなさい。」
急に先生が、教師然とした態度を取った。
また無意識に姿勢が正される。
いつもは優しい先生が、今はちょっと違う。
優しいけど、どことなく、意地悪だ。
「せ・・・・・先生のことが、す、好きです」
喉が、口が、声が震えながら、先生への気持ちを告げる。
もう、これ以上は限界だ・・・。
下を向いて、荒い呼吸を整える。
これ以上目を合わせてたら、緊張で、死んでしまう・・・。