昼下がりの科学準備室で
地味で引っ込み思案な私には、これぐらいしか先生と少しでも長く一緒にいられる方法が思い付かなかった。
親身になって勉強を教えてくれている先生には申し訳ないけど、そのきれいな横顔や真剣な眼差しを間近で見せられて、勉強に集中できるはずがない。
本当は、心臓がばくばくで、苦しくて仕方ないけど、今のところはなんとか、うまく誤魔化せている。と、思う。
先生だってまさか「優等生」の私が、こんな不埒なことを考えながら毎日勉強を教わっているなんて、考えもしないだろう。
真面目に見られていて良かったと思うのは、そういうところだ。
「・・・・よし、じゃあ勉強はこれくらいにして、飯にするか」
「はい・・・」
本当・・・先生は、こんな私なんかと一緒にいて楽しいのだろうか。
自分から話を振ることなんか滅多にないし、話を振られても緊張して、素っ気ない返事しかできない。
下手したら、無愛想とか思われてそうだ。
先生はいつだって優しく笑いかけてくれるけど、毎日勉強を教えるのだって、本当は嫌なんじゃないかな・・・と不安になる。けど、それすらも聞くことができない。
「なー山本」
ちびちびとご飯を口に運んでいると、突然名前を呼ばれた。
先生に名前を呼ばれるのは、なんだか嬉しい。
でも、同時に緊張が増す。
背筋を伸ばし、私は黙って話を聞く体勢を作った。
「山本はさー、りあじゅー・・・?って、知ってる?」
あ、さっきしてた話だ・・・。
それを、たまたまだろうけど、真っ先に私に聞いてくれたことが、少しだけ、嬉しかった。
でも、残念ながら・・・
「知らない、です・・・」
また、ろくな返答しかできなかった。
もう少し、テレビを見て、最近の話題についていけるようになろう・・・。
そしたら、先生とももう少し、盛り上がれるかもしれない。
「山本が知らないなら、俺も知らないままでいいや。」
・・・・・・・
・・・・・・・え?
先生の発言に、目を丸くする。
そうだ・・・。
先生はいつだって、私より一つ先を歩いてる。
それで、たまに私なんかには想像もつかないようなことを言う。
それが、私は、すごく嬉しいんだ。
それにいつも、救われてるんだ。