昼下がりの科学準備室で





振り向かない私の背中に、先生は、何も言ってこない。
ただ、昼休みにしては静かすぎるこの教室の中に、私と、先生の呼吸音が重なって聞こえているだけだ。

先生と二人きりの沈黙をこんなに重く感じたことは、不思議なことに今まで、一度たりともなかった。

今日は、いつもと違う。
私も、先生も。




バッ、



私は、この沈黙に耐えきれず、先生の手を振りほどいた。

そして、教室を飛び出していた。



・・・・・終わった



もう、先生に合わせる顔が、ない。

折角、勇気を出して、毎日一緒にいられるようになったのに。

きっと、真面目で大人しく見られていた私は、今の出来事で幻滅されたに違いない。


でも、これで、諦めがつく・・・・



人の目も気にせずに、廊下を全力で駆け抜けて、屋上へと飛び出した。

初めて来た、屋上。
空がどこまでも広がっていて、気持ち良い。

こんなに走ったのは初めてで、もう、死にそうだ。
息を切らして、その場に倒れる。




キーンコーンカーンコーン




授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、私は生まれて初めて、授業をサボってしまった。

でも、そんなこと、どうだって良かった。

乱れた呼吸を整えながら、まだ微かに腕に残る、先生の手の熱を感じていた。



こんな気持ち、初めてだ。


もうあの笑顔を、あの距離から見ることができないんだと思うと、苦しくて、仕方ない。

全部、自分のせいなのに・・・。



こんなの、最初から不毛な恋だったんだ。
そう開き直ってしまえば、簡単に諦められると思っていた。


でも、まだ、胸が痛いのは



何で・・・・?





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