昼下がりの科学準備室で





念のため、なるべく音を立てないように、静かに引き戸をスライドさせる。

そこには、当たり前に、いつもの光景が広がっていた。

ついさっきまで居たとは思えない。

いつもと同じ位置に同じように、ソファーも机も水槽も、あるのに。
その全てが、どことなく新鮮で、まるで初めてここに来たときのような、緊張感が漂っている。

私のカバンはソファーの上に、ちゃんと乗せられていた。
あれだけとったら、すぐ、出よう。

そうして、一歩、また一歩とソファーに近付いていくと、あるものが目に入った。



それは、先生の机。

この位置からだと、頭しか見えないけれど・・・

確実に先生が、いる。


でも、何も言ってこない。


何で・・・・?



もう少し移動して、もう一度、恐る恐る覗いてみると・・・・


ああ・・・・・



先生、寝てる・・・・。



机の上に乗せた自分の腕を枕代わりに、調度こちらに顔を向けて、静かに寝息を立てている。


授業じゃ、なかったんだ・・・・。


でも、寝てて良かった。
一先ず早くなっていた心拍数が、落ち着きを取り戻す。



・・・・それにしても、先生、寝顔幼い。
眼鏡を外してるところなんて、初めて見た。

みんなは、こんな先生の顔、知らないんだろうな・・・。


傍らにはブラックコーヒー。

コーヒー飲んだのに、寝ちゃったのか・・・。
なんて、ぼんやり思う。

ほっとしたからか、先生の寝顔があまりにも綺麗だからか分からないけど、私はその場から動くことができなくなってしまった。


ふと、山積みになった参考書の上の眼鏡が目に止まる。

これ、いつも先生がかけてるやつ・・・。
手に取り、レンズ越しに教室を見渡す。

・・・度、強い。

頭が痛くなりそうだ。
すぐに止める。


物凄く目が悪くて、カフェイン利かなくて、寝顔が幼い。
また、先生の新たな一面を垣間見てしまった。



もう・・・・



だめだ・・・・




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