My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ
第1章
旅立ち
「アレン」
不意に名前を呼ばれて、ゆっくりと振り返る
すると、巻き上がる様に風が頬を撫でて、とっさに腕で目元を覆った
どこか温かい風が、春の訪れを感じさせる
「何?」
小高い丘の上に立って、海を眺めていた俺
そんな俺に少し離れた所で同じ様に目をしかめた父が、もう一度口を開いた
「陛下がお呼びだ」
「――分かった。今行く」
父の言葉を聞いて、押し出される様に丘を下る
服が風を含んで、バサバサと音を出す
少し伸びた髪が後ろに流れていく
丘の上から街を見下ろすと、大きな風車が勢いよく回っているのが見えた
その力を源に、井戸から水を引き上げたり
様々なモノの動力にしている
「いい風だ」
見上げた青空に、思わず小さくそう呟いた