My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ
夜の闇
「西へ進むのは止めた方がいいみたいだね」
眩しく俺達を照らす太陽の位置を確認しながら、そう呟く
昨夜酒場で聞いた話を考慮しての事だ
「そうだな。少し南にそれて進むか」
同意する様に小さく頷いた父が一度大きく息を吐いた
翌朝、早々にマルスを出て目的地のクレムに向かう事にした俺達
予定していたより遠回りになりそうだからだ
日陰一つない平原の真ん中で、少し休みながら父と話す
「今、どこも荒れているだろうがな」
「酒場の娘が言ってた。ガスパルが国を荒らして回っているって」
パンをかじる父を横目に、昨日聞いた話をする
裏切り者のガスパルの国王。ゼファー
俺達の国からガスパルは離れているが、いずれはその戦火も飛んでくるだろう
「もう少し南へ向かって、川沿いを走ろう」
パンを食べ終わった父を見て、勢いよく馬に飛び乗る
だいぶ遠回りになるけど、川を上っていけばクレムに着くはずだ