My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ


王家の住む王宮の中には、あの風は入り込めない

海から吹く風と、大陸を抜け山々の間から吹く風とが混ざり合って

この国は一年中、強い風が吹く


故に、この国は『風の国』と呼ばれている





左右に等間隔に並ぶ大木の様な大理石の柱

その間を父と並んで歩く

その途中で出会う侍女や衛兵が、すれ違う度に俺達に深々と頭を下げていく



しばらく歩いていくと強固な扉の前に着き、門番に一言伝えてから王の間に足を踏み入れた

美しい真紅の絨毯の上を静かに歩いて、陛下の椅子の前で立ち止まる




「昨夜、帰ったばかりなのに大丈夫か」

「問題ないよ」

「――お前は優しいからな。だが、無理はするな」

「優しい人は、戦いなんてしないよ」




腰に下げてある剣を見下ろしながら、微笑む




――そう。俺は昨日まで戦場にいた


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