フェアリーカンタービレ
大会の空気。
人々の歓声。
すべてがアニアには無情に見えた。
「では、この金額でよろしいですね。全て、アニア選手に賭けてしまいますが。」
「よろしくお願いします。」
イルはお金を入金し、席についた。
もうすぐ、アニアの試合が始まる。
「では、始めです!!」
大きなドラの音が響き渡る。
同時にアニアは動き始めた。
それは、あっという間の出来事だった。
アニアが一瞬だけ攻撃を仕掛けて終わったことだった。
いわゆる瞬殺。
「....クリンヒットォォ!!アニア選手の勝利!!いや〜、あっという間でしたね。あまりの速さに一瞬言葉を口で飲み込みそうでした。」
司会が感想を述べている間、イルは唖然としていた。
「....う....嘘ですよね?まさか、本当に強いのと言うのですか。」
そのまま試合は順調に進み、ついに決勝戦。
アニアはこの国、メリソネ国の三剣士と呼ばれる1人と対決となった。
始まりの鐘が鳴り響く。
同時に両者が一斉に動き出す。
最初に攻撃を仕掛けたのは三剣士の方だった。
アニアの胸に剣を突き刺した。
アニアはそれをイナバウアーのように軽々とよけ、相手に五月雨のような剣を繰り出す。
相手もそれを見事によけていく。
アニアは相手が剣をよけ、体勢を戻す間に音もなく後ろへと回った。
そして、無表情で相手の首に剣を当てた。
勝負が着いた。
司会者は何も言えずにいた。
観客すら騒がないシーンとした中をアニアは無言で出て行った。
しばらく歩くと、カウンターにイルがいた。
「....あら、ちゃんと見てた?」
アニアは少しにやりとして言った。
イルは少しクスリと笑い言った。
「ええ。ちゃんと見ましたよ。勝負が決まった瞬間にカウンターに向かいましたが。どうやら、勝負は私の負けのようですね。」
アニアは少し肩をすぼめて言った。
「あら、もともと賭けなんて成立してないんじゃないかしら。だって、私が優勝することは決定事項だったもの。そもそも、賭けとして、私が賭けたものはないわ。」
イルはカウンターでお金を受け取りながら言った。
「確かに、私のお金もさらに増えて戻ってきてしまいましたし、賭けではなかったのかもしれませんね。では、賭けはなかったことに。」
アニアはイルの後に商品とお金を貰った。
「ええ。じゃあ、さっさと戻りましょう。」
アニアは歩き出した。
イルは歩きながら、アニアのとなりへ行った。
「!!それが、あなたの欲しいものなのですか?」
「ええ。これは妖精の剣。テルミトラ様が欲しがっているの。」
イルの質問に答えながら、アニアはフェアリー蒼剣の隣に剣をさした。
「おい、お前。リョウガって男を知ってるか?」
突然声をかけられてアニアはぎくっとして後ろを向いた。
リョウガという名前に特に反応してしまった。