花嫁指南学校
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期待していた成果を上げないどころか未婚のまま腹をふくらませて帰ってきた娘は、一家のお荷物となってしまった。小さな田舎町では、幸恵が都会の学校を放校になって帰ってきたことが広まり、身重の彼女は肩身の狭い思いをした。恋人の少年とはしばらく頻繁な遣り取りをしていたが、やがて彼からの頼りは途絶えてしまった。結局、高校を卒業した少年が幸恵を迎えにくることはなかった。妻子を養うということは十八歳の少年には荷が重過ぎたのだろう。その後、少年が両親の勧めにしたがって大学に進学したことを幸恵は風の便りで聞いた。
根津家には経済的な余裕がなかったので、幸恵は行政の援助を受けて娘を出産した。シングルマザーの彼女は産後すぐに働きに出なければならなかった。学校を中退してしまった彼女が、雇用の少ない田舎町で就ける仕事は限られている。彼女は小学校時代の同級生を頼って町の歓楽街にあるスナックで働き始めた。幸恵は夕方になると子どもを母親に預け、華やかな装いでスナックに出勤した。
店は鄙びた歓楽街の薄汚い通りに面していた。陽が傾くと通りには客引きのフィリピン人ホステスや黒服の男があふれ、会社帰りのサラリーマンに声を掛けている。毎夜、猥雑な空気を掻き分けながら幸恵は小さな店へと急いだ。彼女はもはや、一年前に住んでいた世界、清潔で暖かく衣食住が満たされた学園とは百八十度異なる世界で暮らしていた。このような複雑な境遇に身を置くようになった学生は、カメリアの歴史において幸恵一人ぐらいだろう。けれど幸恵は自分自身が地に落ちてしまったなどとは考えなかった。夜の酒場で働くことは決して「負け」を意味するのではなく、人生における一つの通過点にすぎないと考えていた。