花嫁指南学校
権藤は毎夜足繁く幸恵の店に通い、熱心に彼女を口説いている。
「なあ、サッちゃん。そろそろ俺んとこへ来てくれよぉ」
ママはいつもたくさん注文をしてくれる権藤を上客としてちやほやしているが、幸恵はそうではない。彼女は彼を他の客と同じように扱う。
「お断りします。私があなたのお店に乗りかえたらうちのママに迷惑をかけてしまいますから」
いかにもたたき上げの実業家らしく権藤の口説きも粘り強い。彼はそういう誘い文句をこの数ヶ月間ずっと言い続けてきた。
「俺んとこに来ればあんたの子どもにだって楽をさせてやれるよ」
会社では威厳にあふれた権藤が弱々しい声で懇願する。
「他人のあなたに私の子どものことをとやかく言われる筋合いはありません」
幸恵がぴしゃりと言う。どんなに歳が離れた男性でも時には子どものように扱えるものだと短期大学部の福芝女史が言っていたが、まさにそのとおりだ。
「俺はサッちゃんを助けたいんだよぉ。俺に何か援助させてくれよぉ」
「お気持ちはうれしいですが、権藤さんにしていただきたいことは何もありません」
「そんなぁ、あんたはホントにつれない人だなぁ。俺、ここのお得意様なんだけど、あんたがそんなに素っ気ないならもう来るのやめちゃうよぉ」
「どうぞご自由に。私には権藤さんの他にもいっぱいファンがいますからね。皆さん、あなたより紳士的でサッパリした方たちですよ」
幸恵は権藤を適当にいなすと別の客がいるテーブルに移ろうとした。