花嫁指南学校
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市内には二級河川が蛇行しながら流れている。春には桜の名所となって観光遊覧船が浮かんでいるような川だ。幸恵と青年は鮮やかな青葉が垂れ込める川べりの道を歩いていた。
昨夜、母親のとりなしで青年は幸恵の家に泊まった。幸恵が一晩考えさせてほしいと言ったからだ。彼は娘との感動的な対面もはたした。
翌日、朝食の後に幸恵は青年を近所の散歩道に連れ出した。二人きりで話がしたかったのだ。街中を流れるその川のへりは遊歩道として整備されていて、朝は近隣の住民が犬の散歩やジョギングをしにやってくる。昔からこの川沿いには鱒の押し鮨を作る店が何軒か建ち並んでいる。昨夜、小雨が降ったせいで道は少しぬかるんでいたけれど気になるほどではなかった。雨のお陰で朝の空気が澄んでいて清々しかった。
二人はしばらく何も言わずに歩いていた。どちらから口火を切っていいものか、何から話していいものかわからなかった。数年ぶりに再会した二人が以前のように話すには少し時間が必要だった。
「それで結論は出たかな」
二つ目の橋を通りかかった時に青年が口火を切った。昭和の時代に架けられた石造りの橋だった。
「うん」
幸恵がうなずく。
「僕と一緒に来てくれるね」