花嫁指南学校
青年の問いに幸恵はかぶりを振った。二人は橋の所で歩みを止めた。
「どうして」
青年がびっくりしてたずねる。
「例えば私たちが歩いて旅をしていたとしましょう」
幸恵はゆっくりと話を始める。
「道が二手に分かれていて、どういうわけか私たちは別々の道を選んでしまったの。Y字型に分かれたその二つの道が再び交わることはないのよ。ほんの数百メートル、いや数キロ進んだだけなら、分岐点まで引き返してもう一方の道に入ることができるわ。でも私たちは別々の道を歩き続けてもう数千キロ以上、気が遠くなるほど長い距離を進んでしまったの」
「つまりもう後戻りはできないということだね」
「ええ。あなたがいない間に私は別の道を歩くことに決めてしまったのよ。あなたを忘れるのは辛かったけど、やっとの思いで立ち直ることができたのよ」
「君に辛い思いをさせてしまってすまなかったと思っているよ。たった一人で子どもを出産してさぞ不安だったことだろう。君のそばにいて助けることができなかった自分が不甲斐ない。でも考え直してくれないかな。もう一度僕にチャンスを与えてほしいんだ。どれだけ時間がかかっても構わないからY字路の分岐点まで戻ってきてくれないか」
幸恵は橋の下を流れる川の水を眺めている。川の中では水草が規則的なリズムで揺れている。彼女は水面から目を離さずに答えた。