花嫁指南学校
「じゃあ、そういうわけですのでもう失礼してもいいですか。退学の手続きはこれから親にとらせますから」
考え事をしている佐島に理香が声を掛ける。
「お待ちなさい! 吉葉さん、あなたはそこに正座しなさい」
すかさず佐島が声を上げ、目の前の床を指さした。
「えー? 何でですかぁ。あたしもうやめるって言ったじゃないですか」
理香が不満げな声を出す。
「やめたいならさっさとおやめなさい。学校の規則を守れない人にはこれ以上いてもらわなくて結構です。ただ、あなたは中等部からこの学園にお世話になってきたのですよ。衣食住を提供してもらい、学費も払わずに教育を受けてきたのです。最後に落とし前をつけなさい」
費用のことを持ち出されては仕方がない。「そんなもの耳を揃えて返してやるわ」と啖呵を切ってやりたいが残念ながらそうはいかない身分である。理香は渋々言われるままに床に座った。木のひんやりした感触が脛に伝わってくる。
これだからこの学校は嫌なんだと心の中で思うが、それを口に出したらますます説教が長引くだろう。
「それから、寮に帰ったら反省文を二十枚書きなさい」
頭上から佐島が付け足す。
「え、二十枚も?」
「あなたのしたことを思えば、本来なら百枚書いてもらってもいいくらいですが、勉強嫌いなあなたのために特別に二十枚に減らしてあげました」
「……わかりました。いつまでに書けばいいんですか」
「明日の放課後、担任の先生に渡しなさい」
「早っ」
「文句があるんですか」
「い、いえ……」
「時間がないなら睡眠を削って書きなさい」