花嫁指南学校
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週末、理香は帰省手続きを出して立川にある母のアパートへ向かった。
立川へ向かう電車に揺られながら、先週はまったくひどい目にあったものだと顔をしかめていた。学長の佐島とかいう鬼ババアに絞られた。ルームメイトの助けを借りて徹夜で書いた反省文も、字が汚いという理由で佐島にやり直しを命じられた。
もっと堅実な家に生まれていたら、あんな厳しい女子校ではなく普通の高校へ通っていたはずなのに。頭の中にありとあらゆる文句が飛び出してきた。容姿の良い娘を金持ちの男に嫁がせようだなんて、いかにもうちの母親が考えそうなことだ。いくらエリートを紹介してもらえるといっても、所詮は三十過ぎの中年男ではないか。そんなつまらない運命をたどるなら、芸能界にデビューして刺激的な人生を送る方がよほど楽しそうだ。
駅前の雑然とした商店街を抜けた路地裏に母親のアパートはあった。呼び鈴を押すと、十分経ってからやっと母親が玄関に姿を現した。
「あら、理香じゃない。珍しいわね」
母親は頭にカーラーを巻いたままジャージの上下を着ている。もう午前十一時だというのに起き抜けの状態だ。
「昨日、こっちへ来るって連絡したじゃない」
「あ、そうだっけ?」
母親はそう言ってあくびをした。