花嫁指南学校

 理香の母親も今を遡ること二十年前は芸能人の端くれだった。

 高校生の頃、人気の男性アイドルと共演がしたくて、彼女はタレント事務所が主催するオーディションに応募した。クラスの中でも「かわいい」と言われていたので、容姿には自身があった。

 残念ながらグランプリには選ばれなかったが、事務所の社員から研修生にならないかと誘われた。目立ちたがり屋の彼女は二つ返事で承諾した。

 アイドル候補になれたとはいえ、彼女の仕事はほとんど雑用だった。放課後に東京都下にある学校から事務所に通い、事務所の掃除や社員のお使いをする毎日を過ごしていた。やっと来たしごとはビキニのグラビア写真の撮影だった。深夜のお笑い番組で水着のアシスタントとして出演していたこともある。

 数年後、同期の女の子がゴールデン枠のドラマに出演することが決まった。噂ではその子は番組を制作しているプロデューサーと寝たらしい。今ではすっかり遠い存在になってしまった同期の顔を見ると、目鼻立ちがすっかり変わっていた。最先端の医療技術の力を借りて顔だけでなく胸の大きさまで変わっていた。  

 彼女自身にもそういう裏技を使うチャンスがあったのだが、その時にはすでにその腹の中に理香を宿していた。当時、彼女は売れない若手俳優とつきあっていたのだ。彼女は未婚のまま理香を出産し、交際相手の俳優とも別れてしまった。

 気がつけば彼女は三十を前にしていた。出産後は水着の仕事も声が掛からなくなり、子どもを抱えた彼女はキャバクラで働くようになっていた。そうこうしている内に事務所との関係も自然消滅してしまった。
< 124 / 145 >

この作品をシェア

pagetop