花嫁指南学校
「あたしはあんたにあの世界がどんなところか教えたはずよ。覚悟はできているわけ?」
母親は娘にたずねる。
「もちろんよ。あたしはママよりも上手にやってみせるわ」
理香が生意気な返事をする。
「ふーん、あっそ。それは大した自信だわね。まずぺーぺーは水着の仕事をさせられるのよ」
「そんなこと知ってるわよ」
「でも、あんたは胸がないからダメだよ。豊胸手術でもするしかないわね」
「豊胸手術くらいやってやるわよ」
「それにあんたのその顔。あの世界にはあんた程度のお顔の子なんて掃いて捨てるほどいるのよ。顔の方もいじらないとね」
「もっときれいになれるなら、整形だって何だって望むところよ」
世の中には上には上がいることを、理香は美少女の園であるカメリア女学園で学んだ。
「それにね、あの世界ではきれいなだけじゃのし上がれないの。コネがないとだめなのよ。あたしみたいにしがないグラビアアイドルで終わるつもり? 元芸能人とはいえあたしにはコネなんてないから、あんた自身が築いていくしかないのよ。コネを作るにはね、わかるでしょ」
「うん。えらいオヤジと寝ろってことでしょ?」
理香はずいぶんとストレートな物言いをした。
「あの世界に入るならそういうこともする心積もりでいないといけないわよ」
「……わかってるわよ」
いざとなったら、できないこともないかもしれない。大河ドラマの主役とか映画の主演の話が来たら、それくらいしてやってもいいかもしれない。
「あーあ。あんたってホント、とことんバカだわね」
母親は「誰に似たのかしら」と言おうとして口をつぐんだ。言うまでも理香は自分に似ているし、それ以上にあの軽薄な男にもよく似ている。外面は阿修羅のように美しいのに、その内面は羽毛よりも軽い男だった。
「言っておくけど、あたしは芸能界入りにはあくまでも反対だからね。まったく、大人しくあの学校にいれば自動的に金持ちと結婚できるのに、それがあんたときたら……」
母親は首を振りながら本日三本目の煙草に火を点ける。髪にからみついたカーラーが頭皮を引っ張って痛い。