花嫁指南学校

 事務所のスカウトマンに話を聞いたことにして、初谷は理香と下北沢で会う約束をした。

 下北沢駅の階段を下りると、初谷はすぐに吉葉理香を見つけることができた。芸能事務所にスカウトされたくらいだから、彼女は雑踏の中でも光っている。大手芸能事務所の専務が直々に会ってくれるというので、彼女は緊張している。

 自己紹介をした時、彼は職業柄つい専門家の目で理香を見てしまった。渋谷のセンター街をうろついていたというわりに、彼女の持つ雰囲気は清楚だった。普通、ああいう場所をたむろしている少女たちは、髪を茶色く染めて厚い化粧をしているものだ。今時の娘に似合わず、理香は膝下のスカートにパフスリーブのブラウスを着用している。髪はナチュラルな黒色で、化粧といえば唇にほんのりカラーリップを引いているだけだ。

 母親は娘のことを学校でも札付きの問題児であると嘆いていたが、一般的な女子高生と比べると、とてもそんなふうには見えない。落ちこぼれでこのレベルなら、普通のカメリアの女子学生とは一体どれくらいハイレベルな少女たちなのだろうか。

 これは予想以上の拾いものかもしれないという思いが浮かび、初谷はすぐにその首を振った。彼は元恋人の女に言われ、この娘にクビを宣告しなければならないのだ。
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