花嫁指南学校
 初谷は理香を駅前の喫茶店に誘った。彼は理香に好きなメニューを選ばせ、自分はブレンドコーヒーを注文した。

 十六年間生き別れた実子に出会ったというのに、初谷にはその実感が湧かない。この娘の顔はきっと自分にも似ているのだろうが、肉親の顔を客観的な目で見ることはできない。もちろん、理香には自分が実父であることを明かすつもりはない。


「君は芸能事務所に入って何がしたいんだい?」

 初谷は理香にたずねた。

「えっと……あたしまずはアイドルになりたいんです。あたしってほら、背が低いじゃないですか。だからモデルとかにはなれないでしょう。アイドルになってバラエティとかに出たいんです。それから将来、アイドルをやれない歳になったら女優に転身したいんです。あたし、お芝居とかにも興味ありますし」

「へえ、なるほどね」

 初谷は相槌を打つ。内心、ありきたりな志望動機だと思った。

「じゃあ、芸能人になるために何か勉強しているのかい?」

「……うーん、特にそういう勉強はしていません。あの、うちの学校って花嫁修行の勉強しかさせてくれないんです。本当に退屈な所です」

 カメリア女学園の噂は小耳に挟んだことがあるが、あそこは全国から美少女を募って無償で教育を与え、卒業時に金持ちと見合い結婚をさせる学校らしい。

「でも、俳優志望の若い子の中には、課外で劇団に入ったり習い事をしたりする子もいるよ」

 初谷は突っ込んでみた。芸能界志望だったとはいえ、彼自身は学生時代に遊びほうけていただけだったから、本来はえらそうなことを言えない。

「うーんと……」

 理香は少し返答に困る。
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