花嫁指南学校
「初谷さんのおっしゃるとおりですよね。でも、私には習い事をするお金がないし、学外で課外活動をするには先生の許可が必要だし……。うちの学校、お花とかお茶とかなら習わせてくれるんですけど」
「ふうん、そうかい。それはなかなかシビアな環境だね」
カメリア女学園は特殊な学校だと聞いているから、確かに生徒の行動にはたくさんの制約があるのだろう。
「ええ、そうなんです。あそこはとっても厳しい学校なんです」
「そうみたいだね。君の行ってる学校は宝塚音楽学校みたいな所かい? 掃除とかも徹底的にさせられるんだろう?」
「私はそのなんとか音楽学校のことはよく知りませんけど、確かにうちの学校ではお掃除に力を入れていますよ。毎朝六時半にたたき起こされて、班ごとに寮の掃除をさせられるんです。もちろん、学校でも校舎の掃除を毎日しますよ。うちの学校の床は生徒のスカートの中が映りそうなほどピカピカに磨かれていますよ」
「ハハ、それはすごいや。まさしく宝塚みたいな学校だね」
「それに食事当番だってあります。当番が回ってきたら、寮の厨房で調理員さんたちが生徒のご飯を作るのを手伝うんです」
「へえ、それもすごい。君はその歳で料理も作れるのか」
「ええ、まあ、一応」
理香は「あまり上手くはないですけど」と付け足した。
初谷は思った。自分の遺伝子を受け継いだ娘が、こういう自衛官あるいは体育大学生のような生活を送っていたら、そりゃあ落ちこぼれるわけである。まあ、娘を持つ親にとっては非常にありがたい躾をしてくれる学校ではあるが。
初谷は好奇心にかられ、私立カメリア女学園のことを次々と理香に質問した。理香は彼の質問に素直に答えてくれた。理香の答を聞き、初谷はその花嫁学校にますます興味を持った。その秘密の花園は、彼の会社が求める人材の宝庫かもしれない。何しろ大衆というものは希有な存在に対する興味が津々なのだから。