花嫁指南学校
アポイントの当日。志穂美は源生寺の門をたたいた。
寺務所の職員に寺の応接室へ通されると、そこにはすでに菫がいて、なんと優二もいるではないか!
「あ、優二! 何であなたまでここにいるのよ?」
志穂美が畳の上に座っている恋人に向かって指をさすと、彼はバツの悪そうな顔をしてうなだれる。よくもまあ、こんな場所にのこのこと現れるものだ。
女二人に彼女らに粉をかける不届きな男が一人。これこそまさに修羅場の始まり始まり~ではないか!
志穂美は強い目つきで優二をにらみ、それから菫に目をやる。年上の女にガンをつけられても、菫は涼しい表情を崩さない。自分こそが優二の本命であることを自負しているその表情が、志穂美をいらだたせる。
「ちょっと谷野さん! 彼が来るなんて聞いてないわよ!」
「まあまあまあ」
そこへ穏やかな中年男性の声が割って入ってきた。
「奥村さんも呼ぼうというのは私のアイデアなんですよ。どうせなら当事者全員でがっぷり話し合ったらいいかと思いまして」
志穂美がはっとして声の主を見ると、袈裟懸け姿の中年男性が部屋の入り口に立っていた。
「初めまして。当寺の住職、木俣生源と申します。今日は遠いところをよくお越しくださいました」
住職はにこやかに一礼をする。
「初めまして、杉田です。今日は私たちの相談にのってくださってどうもありがとうございます」
志穂美はすぐに体裁を取り繕う。
「杉田さんもそちらにお座りください」
住職に促され、彼女は座椅子に座った。
和室に一瞬の静寂が訪れた。三人の男女と坊さんが雁首をそろえて大真面目に痴話げんかの解決をはかるとは、何とも奇妙なシチュエーションである。住職が話を切り出した。
「あなた方の話は概ね谷野さんより聞いています。今回はこの私に、お二人の女性のうちどちらがこちらの奥村さんに相応しいかを決めてほしいということですな」
彼の問いに菫はこくりとうなずく。
「うーむ。それは難しい問題ですなぁ。私はあなた方の人となりを存じませんし」
住所はあごに手を置く。
「和尚さん、彼に相応しいのはこの私です! 彼とずっと付き合ってきて、彼のことをよく知っているのは私なんです! こちらの谷野さんは最近彼と知り合ったみたいですけど、彼女は単に彼の職業に引かれているだけなんです。知ってましたか?彼女はあの花嫁育成学校としてしられる私立カメリア学園の生徒なんですよ。玉の輿狙いに決まってます」」
志穂美は何の遠慮もなく本音をぶちまけた。
「うーむ、そうでしたかぁ。それほど長い付き合いなら奥村さんへの思いも絶ちがたいですなぁ」
志穂美がふと傍らを見ると、優二が苦い顔をしている。彼女の未練を鬱陶しく思っているような表情が腹立たしい。
「杉田さんはあのようにおっしゃいますが谷野さんの気持ちはどうなんですか」
住職にたずねられ、菫がスラっと答えた。
「私は優二さんを愛しています」
それ聞いた優二はあからさまにでれっとした表情を浮かべた。ますます腹立たしいやつだ。
「ふむ。あなたは彼のご職業ではなくそのお人柄に引かれているのですな?」
「もちろんです」
(うそばっかり)と志穂美は思った。
「ふーむ、お二方の言い分が食い違うとなると判断が難しくなりますなぁ。では、奥村さんは今、どちらの女性を愛しているのですか」
「え、あ、僕はっ……」
急に話を振られて不甲斐ない声を出した優二は、三者の視線を一斉に浴びた。彼は一瞬ひるんだが意を決して答えた。
「以前は志穂美のことが好きでしたし、彼女との交際ではいい思いでもありますけど、今僕が好きなのは菫さんです」
菫がうれしそうに微笑む一方、志穂美は唇を噛んだ。こうなってはやはり住職も菫が彼に相応しいと言うのだろうか。
「そうですか。彼と谷野さんが相思相愛なのでしたら二人が付き合えばいいことになりますが、それだと私が間に入った意味はありません。杉田さんだってきっぱりあきらめられないから、この寺に来たのでしょう?」
「ええ、そうです。好きな人ができたから別れてくれなんて急に言われても、納得できません!」
寺務所の職員に寺の応接室へ通されると、そこにはすでに菫がいて、なんと優二もいるではないか!
「あ、優二! 何であなたまでここにいるのよ?」
志穂美が畳の上に座っている恋人に向かって指をさすと、彼はバツの悪そうな顔をしてうなだれる。よくもまあ、こんな場所にのこのこと現れるものだ。
女二人に彼女らに粉をかける不届きな男が一人。これこそまさに修羅場の始まり始まり~ではないか!
志穂美は強い目つきで優二をにらみ、それから菫に目をやる。年上の女にガンをつけられても、菫は涼しい表情を崩さない。自分こそが優二の本命であることを自負しているその表情が、志穂美をいらだたせる。
「ちょっと谷野さん! 彼が来るなんて聞いてないわよ!」
「まあまあまあ」
そこへ穏やかな中年男性の声が割って入ってきた。
「奥村さんも呼ぼうというのは私のアイデアなんですよ。どうせなら当事者全員でがっぷり話し合ったらいいかと思いまして」
志穂美がはっとして声の主を見ると、袈裟懸け姿の中年男性が部屋の入り口に立っていた。
「初めまして。当寺の住職、木俣生源と申します。今日は遠いところをよくお越しくださいました」
住職はにこやかに一礼をする。
「初めまして、杉田です。今日は私たちの相談にのってくださってどうもありがとうございます」
志穂美はすぐに体裁を取り繕う。
「杉田さんもそちらにお座りください」
住職に促され、彼女は座椅子に座った。
和室に一瞬の静寂が訪れた。三人の男女と坊さんが雁首をそろえて大真面目に痴話げんかの解決をはかるとは、何とも奇妙なシチュエーションである。住職が話を切り出した。
「あなた方の話は概ね谷野さんより聞いています。今回はこの私に、お二人の女性のうちどちらがこちらの奥村さんに相応しいかを決めてほしいということですな」
彼の問いに菫はこくりとうなずく。
「うーむ。それは難しい問題ですなぁ。私はあなた方の人となりを存じませんし」
住所はあごに手を置く。
「和尚さん、彼に相応しいのはこの私です! 彼とずっと付き合ってきて、彼のことをよく知っているのは私なんです! こちらの谷野さんは最近彼と知り合ったみたいですけど、彼女は単に彼の職業に引かれているだけなんです。知ってましたか?彼女はあの花嫁育成学校としてしられる私立カメリア学園の生徒なんですよ。玉の輿狙いに決まってます」」
志穂美は何の遠慮もなく本音をぶちまけた。
「うーむ、そうでしたかぁ。それほど長い付き合いなら奥村さんへの思いも絶ちがたいですなぁ」
志穂美がふと傍らを見ると、優二が苦い顔をしている。彼女の未練を鬱陶しく思っているような表情が腹立たしい。
「杉田さんはあのようにおっしゃいますが谷野さんの気持ちはどうなんですか」
住職にたずねられ、菫がスラっと答えた。
「私は優二さんを愛しています」
それ聞いた優二はあからさまにでれっとした表情を浮かべた。ますます腹立たしいやつだ。
「ふむ。あなたは彼のご職業ではなくそのお人柄に引かれているのですな?」
「もちろんです」
(うそばっかり)と志穂美は思った。
「ふーむ、お二方の言い分が食い違うとなると判断が難しくなりますなぁ。では、奥村さんは今、どちらの女性を愛しているのですか」
「え、あ、僕はっ……」
急に話を振られて不甲斐ない声を出した優二は、三者の視線を一斉に浴びた。彼は一瞬ひるんだが意を決して答えた。
「以前は志穂美のことが好きでしたし、彼女との交際ではいい思いでもありますけど、今僕が好きなのは菫さんです」
菫がうれしそうに微笑む一方、志穂美は唇を噛んだ。こうなってはやはり住職も菫が彼に相応しいと言うのだろうか。
「そうですか。彼と谷野さんが相思相愛なのでしたら二人が付き合えばいいことになりますが、それだと私が間に入った意味はありません。杉田さんだってきっぱりあきらめられないから、この寺に来たのでしょう?」
「ええ、そうです。好きな人ができたから別れてくれなんて急に言われても、納得できません!」