花嫁指南学校
 ついに六度目のお見合いで恵梨沙はこれはという男性に出会った。それは二年生の前期が終了する直前のことだった。前期試験でも好成績を収めた彼女のもとに、進路指導部から新たな縁談が舞い込んできた。相手は来宮良寛という二十八歳の医師で、現在都内のある総合病院に勤務しているのだという。カメリア倶楽部の会員は皆高給取りなので、その年齢層は必然的に三十代から四十代が中心となる。来宮は会員の中では珍しい二十代のエリートだ。

 恵梨沙は学生寮の寮職員でヘアメイクも兼ねる藤本清子女史にメイクアップとヘアセットをしてもらった。プロのメイクアップアーティストの手にかかると、ナチュラルメークでも彼女の美しさを最大限に引き出すことができる。絹糸のように柔らかい栗色の髪に天使の輪が現れた。藤本は仕上げに石鹸水の淡い香りがするコロンを吹きかけた。この香りが清純派のイメージに相応しいのだという。恵梨沙は水玉模様の入った濃紺のワンピースを着替え、ビジューの付いたパンプスを履いた。「あなた、とてもきれいよ」と言ってくれた藤本に礼を述べ、彼女は指定されたレストランに向かった。

 お見合いは学園が用意する雰囲気の良いレストランの個室で行われる。通常のお見合いのように双方の両親が同席することはなく、初めから二人きりで食事をする(もっとも先方が希望すれば両親が同席することもあるが)。今回は住宅街の中にある瀟洒なフレンチレストランでのランチだった。極めて不規則な職業に従事する来宮医師は、平日の昼間でないと休みを取ることができない。彼は忙しい仕事の合間を縫って郊外の町まで来てくれた。
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