花嫁指南学校
「いいでしょう。詳しく言うと、世話好きな叔母がこの見合いを勧めてくれたんですよ。来る日も来る日も仕事三昧で、女の影も見えず、殺伐をした人生を送る甥っ子のために、叔母が世話を焼いてくれたんです。実のところ僕は薄給で駆け出しの勤務医にすぎませんから、カメリア倶楽部に入会できるような年収だって稼いではいませんよ。資産家の叔母がこのお見合いの資金を援助してくれたんです。僕がお金持ちじゃないってわかってちょっとがっかりしましたか」
 来宮は微笑みながら言う。

「とんでもない!」
 恵梨沙は本心から否定する。

「でも、そんな立派な叔母様がいるのなら、何もうちを利用しなくても良い縁談のお話がいくらでもあるでしょう。うちはどちらかというと特殊な結婚相談所ですから……」
 恵梨沙は自分の気持ちを露わにした。

 この青年になら多少差し出がましいことを訊いても大丈夫のような気がした。

「叔母が立派かどうかはわかりませんが、確かに見合い話の一つや二つはありましたよ。叔母に縁談を勧めれたこともありましたが、仕事が忙しくてずっと断っていたんですよ。それでも彼女は熱心に見合いを勧めてきて、今回紹介してくれたのがカメリア倶楽部に所属するあなただったというわけです」

「女子大生のファイルの中から私を選んだのは叔母様だったというわけですか」

「そうです」
 自分を選んだのが来宮自身ではなく彼の叔母だったことを知って、恵梨沙の胸の奥が少し痛んだ。

「叔母は『来宮家の跡継ぎを産む女は賢くなければならない』と申しておりました。なんでも桐原さんは短期大学の主席でいらっしゃるとか」

「はい。毎回首位の座を守っているというわけではないのですが、だいたい上位三位以内をキープしております」

「それは大したものですね。僕こそ不思議に思いますよ。余計なお世話かもしれませんが、あなたのような優秀な女子学生が社会も見ずに結婚するなんてもったいないです。あなたは将来何かになりたいと思ったことはありませんか」

 来宮の問いに恵梨沙はすぐに言葉を返すことができなかった。彼の言うことこそまさに、彼女が悶々と考えていたことだったからだ。

< 38 / 145 >

この作品をシェア

pagetop