花嫁指南学校
「何か職業に就くといいましても、私には何の取り柄もありませんから。おっしゃるようにペーパーテストは多少得意ですけど、何かの専門的な知識があるわけではありませんし。就けるとしたらうちに求人を出している企業の一般職ですかねぇ」

「そうですか。桐原さんはまだ十九歳なんだから、これから色々な可能性があると思いますけどね」

「来宮さんはどうして今のお仕事に就こうと思われたのですか」
 恵梨沙がたずねる。

「僕が医者になった動機ですか? そうですねぇ。こう言うとかっこつけているみたいに聞こえますけど、やっぱり人の命を助ける仕事に就きたかったからかなぁ。小学生の時に仲が良かった親友が病気で早死にしてしまいましてね。大きくなったら友だちみたいな子の病気を治せるようになりたいと思ったんです」

「では小児科をご専門としていらっしゃるのですか」

「そうなんです。あまり医者がやりたがらない小児科医は不足しているから、僕が名乗りを上げたわけです。実際やってみると、子どもは大人の患者以上に扱いが難しいから、色々と苦労しますよ」

「病気で苦しんでいる患者を助けることができるなんて、とても立派なお仕事ですわ」
 恵梨沙の脳裏に、八年前に肺病で他界した母親の姿が浮かび上がる。

「もし差し支えなければ、来宮さんのお仕事のことを話してくださいませんか」

「そうですね。僕たちはお見合いをしているわけなんだし、僕の仕事のことを説明しておいた方がいいでしょうね」

 そう言って来宮は小児科医としての自分の仕事のことを話し始めた。

 医療の現場は恵梨沙が想像していた以上に緊張したもので、医師の業務は過酷さを極めていた。シフトは不規則で勤務時間は長く、休日も満足に取れないほど忙しい仕事だった。深夜に子どもの急患が出ると、就寝中にもかかわらず携帯電話で否応なしに叩き起こされる。

 恵梨沙は来宮医師の話に熱心に耳を傾けた。彼女も何度か病院にはかかったことはあるが、その内側にそんな世界が広がっているなんて全然知らなかった。
< 39 / 145 >

この作品をシェア

pagetop