花嫁指南学校
 志穂美はふんと鼻を鳴らす。傍らでは来宮が二人の女の遣り取りを固唾を飲んで見守っている。

「あー、やだやだ! そういうの聞き飽きたわ。『志穂ちゃんちはお金持ちだからずるい。志穂ちゃんはパパが偉いからずるい』って、子どもの頃からそればっかり言われてきたわ」
 志穂美は真横にいる小娘をにらみつける。

「あたしが何をしたっていうのよ? あたしはただ与えられた環境を享受してきただけよ。それのどこがいけないのよ? あんたなんか自分に言い訳しているだけでしょ。『お金が無いから何々ができない。コネが無いから何々になれない』ってさ。あたしはあんたみたいにしみったれた小娘なんか大嫌い! お嬢ちゃん、あたしは親切だから助言してあげる。花嫁学校の説くことだけが世の中の全てじゃないわよ」
 恵梨沙は目を大きく見開く。

「しみったれ」という言葉が彼女の胸を突き刺した。

「杉田さん。ちょっと言いすぎですよ。彼女はあなたよりずっと年下の女の子なのですから、そんな恐い言い方をしちゃダメですよ」
 見かねたマスターが志穂美をなだめる。

「あ、そ。じゃ、あたし帰るわ。お邪魔して悪かったわね」
 そう言って志穂美はカウンターを離れた。

 店を出ていく女の後ろ姿を見送って、恵梨沙と来宮は再び顔を見合わせる。
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