花嫁指南学校

5

 恵梨沙はカメリア女学園で最も恐れられている人物と対峙しようとしていた。

 これから彼女はその人物を説得して、これまで誰も試したことのないことをしようとしている。学園の歴史上、そんな大それたことを望んだものは誰もいなかったから、そこに行く前には気合を込めなければならなかった。

 恵梨沙がノックしたのはカメリア女子短期大学学長、佐島陽子女史の部屋のドアである。佐島女史は学生たちから「陽子女帝」と呼ばれるような厳しい教師で、特に女子の礼儀作法にうるさい人である。彼女の部屋を訪れる学生は「入室の仕方がなってない」と何度もやり直しをさせられる。校内ですれ違う時におじぎがしっかりできていないと、呼び止められてくどくど注意をする。また、キャンパスで服装が乱れた学生を見掛けると学生指導室に引っ張っていく。これまで陽子女帝の指導に泣かされた学生は数知れない。優等生の恵梨沙も大それたことをお願いしたら、学長にたっぷりしぼられるだろう。

 重厚な扉を開くと、その先には緊張に満ちた空間が広がっていた。一つの無駄も無い、清潔かつ高級なインテリアはいかにも佐島学長の部屋に相応しかった。学長は威厳にあふれた表情で自分が呼びつけた学生をにらむ。

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