花嫁指南学校
「どうしたものかしらね。本橋さん」

 個人面談の時、生活指導部の教師がため息をついた。

「はあ」

「あなた、もう少し痩せたらどう? このまま肥満が進行したら健康にも良くないわよ」

「先生。でも、私太りやすい体質なんです。食べる量は人並みなのに何故か太ってしまうんです」

 ナズナはプクプクした両手を膝の上に置いて椅子に座っている。

「そんなことはないでしょう。そりゃあ、多少遺伝的な体質は関係あるかもしれないけど、太っている人は皆太る食習慣を持っているのよ。あなたのような人たちは知らず知らずのうちに口の中へものを運んでいるものよ。一度、自分が食べたものを全て記録してみたらどう? レコーディングダイエットというやつよ」

「そんなことしても続きません」

「では、ジムのトレーナーや栄養士の先生にもう一回相談して、ダイエットの作戦を練り直したら?」

「はい。やってみますけど、うまくいくかどうかわかりません」

「本橋さん! 一番の問題はあなたにやる気が無いことじゃないの? やる気が無いからダイエットが続かないんでしょう! 意識を改革しなさいよ、意識を!」

 ナズナは大きな体を縮める。

「あなたがもし普通のお嬢さんならその状態でもいいわ。でもあなたは独特の理念を掲げる本学で無償の教育を受けてきたのだから、うちの期待に応えなければならない立場にあるのよ。周りの学生たちは皆、親御さんや教員の期待に応えて素晴らしい結婚相手や就職先を見つけていますよ。あなたのルームメイトの谷野菫さんを見てごらんなさい。大きな歯科医院の御曹司に見初められたのですよ。あなたも少しは彼女を見習ったらどうですか」
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