花嫁指南学校

2

 椿の園の中でまことしやかに囁かれる噂がある。

 数年前の卒業生に肥満に悩む学生がいた。彼女もやはりナズナのようにエクササイズに励んだり、自らに食事制限を課したりしていた。さらに学園の援助で伊豆の方にある断食道場に通ったりしたのだが、一向に努力の成果が表れなかった。空腹で講義中に倒れてしまうくらい食事を制限していたのに、ぜい肉は少しも消えてくれなかった。体型のことで生活指導部の教師からおとがめを食らってしまい、彼女はかなり焦燥した。

 思い余った女子学生は、インターネットの通販で中国から輸入された怪しげな痩せ薬を購入した。その薬を服用するといくらか減量に効果があったので、彼女はそれを飲み続けた。だが、実はその薬には強い副作用があり、女子学生は次第に体の不調を訴えるようになった。それでも痩せてきれいになって、良縁に恵まれたい彼女は、危険な薬の服用をやめなかった。もっと痩せたいと欲張るあまり、一日に定められた摂取量以上の錠剤を飲むようになった。

 そして待ちに待ったお見合いの日がやってきた。お見合いはカメリア女学園が提携している料亭の一室で行われた。女子学生は学園の衣装部に貸してもらった振袖を着て、一流商社マンとのお見合いに臨んだ。大事な席だというのに、腹に巻かれた帯が異様に苦しく感じられた。着物を着て畳の上で正座をしていると足の方も痺れてくる。だんだん胸が苦しくなってきた彼女は、給仕が前菜を運んできたのと同時に畳の上に倒れ込んだ。

 彼女はすぐに救急車で病院に搬送され、心臓に異常があると診断された。痩せ薬の有害成分で心臓に異常が発生したのだ。彼女はしばらく入院を余儀なくされ、学校生活を続けることができなくなった。

 結局、女子学生の病気は快復せず、結婚相手も就職先も決まらないまま彼女は故郷に帰された。彼女の父親は失業中だったので、実家に戻った彼女は満足な治療を受けることができず、狭い部屋で引きこもり状態になっていた。女子学生は貧しい生家に戻って、心臓病を患ったまま不遇の人生を歩んでいるとのことだ。
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