花嫁指南学校

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 それからナズナは進路指導部での面談のアポイントを取った。田舎に帰ることを念頭に置いて地元企業への就職活動にシフトしようと思っていることを、担当教員に伝えようとした。カメリアの学生としては稀だが、ナズナでも取ってくれそうな地元の中小企業に就職しようと彼女は考えていた。

 進路指導部に入室すると、担当教員があたかもナズナを待ち構えていたかのように、彼女を面談室へ連れていった。

「本橋さん、待っていたわよ」

 教員はナズナの言葉を待たずに自分の話の方を先に切り出す。

「私のことを待っていたのですか」

 先生は進路が決まらない自分のためにそんなにも親身になってくれているのかとナズナは思った。だが教員が彼女を待ち構えていたのはそういう理由からではなかった。  

「ええ。あなたに新たな縁談が舞い込んだのよ!」

 教員の声は弾んでいる。

「えっと、それは間違いないですよね」

「もちろんよ。この前はくたびれもうけをさせちゃって本当にごめんなさいね。あなたも気まずい思いをしたことでしょう。でも今回はしっかり確認をしたから大丈夫よ。安心して待ち合わせ場所に行ってね」

 先日、橋本夏香に間違えられて訪問した見合いの席では、中年会計士に失礼な態度を取られて非常に嫌な思いをした。あの時のことがまだ頭にこびりついているので、もう一度お見合いに行きたいという気持ちにはなれない。

「先生。その縁談はどうしてもお受けしなければならないものなのですか」

「どういう意味?」

「私、最近考えていたんです。就職活動もお見合いもうまくいかないから、ふるさとの実家に帰って地元の企業に就職しようかと」
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