花嫁指南学校
 カメリアの卒業生の売りはその美貌や洗練された立ち居振る舞いだけではない。彼女たちは正真正銘の処女だというのが、おそらく最大のセールスポイントなのだろう。もっともことがことであるだけに、生徒が処女であるというのは暗黙の了解であり、公にされることではない。古来、花嫁というのは処女であると相場が決まっていた。それが戦後の近代化やフェミニズム運動によって女性の性が解放され、先進国ではそのような貞操観念は時代遅れであるとされた。だが、同校では保守的な価値観に希少価値を見出し、少女たちの出世のための強みにしているわけである。

 当然、日本国内のフェミニストや女性の知識人たちからは、カメリア女学園のやり方に対する批判の声が上がった。貧しい少女たちを売り物のように仕立てているというのが、彼女たちの言い分である。だが、持たざる者には持たざる者の論理があるのである。下層階級の少女が、インテリ女性のようなエリート教育を受け、知的職業に就く機会は極めて限られている。たくましい母親や少女はそんな金持ちの説くきれいごとなんかに耳は貸さない。正攻法ではないにしても、貧しい親は自分たちにできるやり方で娘の幸せをつかもうとしているだけなのだ。

 普通、短大の二年生は就職活動をするものだが、カメリアではそれと同時にお見合いもする。高級ホテルでエグゼクティブ男性とのお見合いイベントが催されることもあれば、個別に紹介がなされることもある。八割近くの学生が在学中に婚約し、残りの学生は花嫁候補として一流企業の一般職に就職する。ごくわずかな学生だけが短期大学部の上にある専攻科に進学すする。
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