花嫁指南学校
 すると教員は即座にナズナの考えを否定した。

「何をバカなことを言い出すの。あなたはこのカメリアで女の花道を歩むべく教育を受けたのでしょう。確固たる地位を築き社会から尊敬される男性と結ばれるのがあなたの幸せなのよ」

「そうでしょうか」

「何を弱気なことを言っているのよ。このチャンスを逃したら次はもう来ないかもしれないわよ! 故郷で就職したいというけど、じゃあ、あなたが申し込めるような求人がどこか地元の企業から来ているの? もう後期が始まってしまったのよ。よその大学生は皆とっくに内定をもらっている時期よ。そんなに悠長に構えていて大丈夫かしら」

 教員に畳み掛けられてナズナはうなだれる。

「確かに、いくら学生に無償の教育を与えているからといって、本学は嫌がる学生を無理やり先方にご紹介したりはしないわ。でもね、私たちがこうやって強く勧めているのは、お相手がカメリアという団体にとってとても大切なお客様だからなの。相手の方は年齢もまだお若いし、お仕事においても大変活躍をされているわ。私個人は、彼はとても魅力的な方だと思うの。だから会うだけでも会ってくれないかしら」

 教員は懇願するように言う。

「そこまでおっしゃるのなら仕方ありません。先生はきっと私が首を縦に振るまで説得し続けるのでしょう。そのお話をお受けします」

 ナズナは観念した。

「それにしても、どうしてその方は私に会いたいと希望してくださったんでしょうか。私、そんなに魅力的な学生とは言えませんし」

 カメリア倶楽部の自己紹介書に載っている写真も、ナズナのだけは女芸人のそれのように見える。

「あなたがこの前、橋本さんの代わりにレストランに行った時、ちょうどお相手の方もその店が入っている高級ホテルを利用されていたのね。エントランスの所で、あなたが一人でハイヤーを待っている姿を見て、彼はあなたを気に入ってしまわれたのよ。お付きの人にあなたの身元を調べさせたら、うまい具合にあなたは結婚相談所みたいな学校に在籍していたというわけ。まあ、なんて運命的なご縁なのでしょう!」

 自分のことをわざわざ調査してまで探し出す人がいるなんて、ナズナには驚きだった。

「あなたが引き受けてくれると決まったなら早速ご紹介よ。カワシマ氏はすぐにでもあなたに会いたいとおっしゃっているから、明日にでも席をセッティングしましょう。思い立ったが吉日よ!」

 お見合い相手は「カワシマ」という名前らしい。
< 70 / 145 >

この作品をシェア

pagetop