花嫁指南学校
 翌日、午後一時にナズナはメイクルームへ呼び出された。三時半の集合時間に合わせて着替えとメイクに約一時間見ている。

 ヘアメイクでスタイリストの藤本女史がナズナのために十三号のワンピースを新調してくれた。玉虫色の光沢がまばゆいシルクシャンタンのワンピースだ。洋服に合わせてウェッジソールのエナメルパンプス、籐素材のハンドバッグ、そしてクリスタルのアクセサリーも用意してくれた。今までナズナはこんな素敵な装飾品を身につけたことがなかった。

「今日は着物じゃないんですね」

 ナズナがたずねる。

「あんなものじゃだめよ。何重にも帯を巻きつけるとあなたのそのお腹が余計にふくらんで見えるわ。このワンピースはね、巧みに体型を隠すデザインなのよ」

「はあ、そんな優れものがあるんですね。ともかく私のためにこんな素晴らしい衣装を用意してくださって、どうもありがとうございました」

 ナズナはぺこりと頭を下げる。


 藤本は先日の見合いの時よりもより入念にメイクをしてくれた。手が込んでいるけれど決して厚化粧には見えない「出汁の利いたメイク」というやつである。彼女はナズナのゴワゴワした直毛をふんわりとブローし、ラインストーンのクリスタルカチューシャを付けた。着替えとヘアセットが済むと仕上げにフランス製の百合の香水を吹き付けてくれた。

 今回、進路指導部は自分のような劣等生に対して異様なほど力を込めてくる。あの谷野菫の時ですらこんなに力のこもったお膳立てはしてもらえなかっただろう。進退窮まったナズナのために先生方はいよいよ本格的にてこ入れをしてくれているのだろうか。
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