花嫁指南学校

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 本橋ナズナとアレックス・カワシマ・ピーターソンは数回のデートを重ねた後に婚約した。コーヒーショップでアレックスが言っていたとおり彼の判断は正しかった。彼にとってナズナは一緒にいて最も落ち着く女性であったし、彼女も彼のことを好もしく思うようになった。アレックスは彼女にフランス製の数百万円する婚約指輪を贈った。それはカメリア女学園の女子学生がもらった婚約指輪としては破格の値が付く超高級品である。

 アレックス・カワシマ・ピーターソンはアメリカのグローバル金融企業、マックギル・アンド・サンズ社のアジアディヴィジョンに所属している。マックギル・アンド・サンズは投資銀行業務の幅広い分野において世界の上位に位置する名門投資銀行である。アレックスは東京生まれで、父親の転勤に伴って十代の時にアメリカに渡った。アメリカの名門ビジネススクールを修了するのと同時に会計士資格を取得し、大手金融機関のマックギル・アンド・サンズに入社した。投資顧問として順調にキャリアを積み、三十代の若さで同社のアジアディヴィジョンを統括するCEOに抜擢された。年収は数億円と推定される。カメリア女学園の進路指導部が彼とナズナの縁結びに力を入れていたのにはそういった背景があった。

 アレックスは来期からニューヨーク本社に転勤する予定なので、ナズナも彼についていくことになった。二人は会社がマンハッタンに所有する高級コンドミニアムで新婚生活を始めることになる。海外移住にあたり、ナズナはカメリア女学園の進路指導部長から英語の勉強を厳命されている。ものすごい玉の輿に乗って喜んでいたのも束の間、卒業まで語学と欧米流のマナーをみっちり仕込まれることになった。CEOの令夫人としてナズナはニューヨークの上流階級の人々と交際しなければいけないから、彼女には特別にネイティブの英語講師とマナー講師が付けられた。
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