花嫁指南学校

2

 そんな折、カメリア女学園の周辺地域では最近になって不審者が出没しているという情報が浮上した。学園に在籍する美少女たちを付け狙う不埒な輩は、意外にもまだ若い大学生風の男だという。男は日に何度も学園の校門の辺りに出没し、学生たちが出てくるのを待ち構えているそうだ。彼はまだ何も問題行動を起こしていないので、ただ周辺に現れるという理由だけでは警察も彼をしょっ引くことはできない。

 生活指導部は学生たちに学園の外へ出掛ける時はくれぐれも注意するよう呼び掛け、短大生の門限も九時から八時に引き下げられた。中等部や高等部の生徒にいたっては夕方以降の外出を禁じられた。


 当然のことながらカメリア女学園のような施設の門限は厳しい。寮生が外出をする時、決められた門限までに帰らないと、学生は複数の寮監に囲まれて二時間たっぷりお説教をされるのである。普通の学校、特に大学は部外者でも簡単にその敷地内に入ることができるが、カメリア女学園の敷地は厳重なセキュリティシステムによって守られ、部外者が立ち入れないようになっている。学生の保護者でさえ娘の様子を見にくることはできない。学園と関係のある業者は、正門の所に駐在する警備員の許可を得てからでないと職員室に入ることはできない。私立カメリア女学園は外の世界から隔離された学校なのである。

 もちろん、学生たちは放課後や休日に学校の外へ出ることは許されている。いくら学園の敷地が広いからといっても、三百六十五日ずっとそこに閉じ込められていては息が詰まってしまう。彼女たちはわずかなお小遣いを持って近くの商店街で買い物をしたり、景色の良い公園へ散歩にいったりする。

 カラオケボックスやゲームセンターに行くことは禁じられている。もしそういう場所へ行ったことが学校側に知られたら、その学生は即謹慎処分となる。貧しい学生たちは自分たちがカメリアの他に行く当ての無いことがわかっているので、あえてリスクを冒すような愚かなまねはしない。

 外泊する時は前もって寮監に外泊届を出し、宿泊先の人間から学生手帳にサインと印鑑をもらって帰ってこなければならない。学生たちがよそに外泊するのはもっぱら地方の実家に帰る時ぐらいである。
< 80 / 145 >

この作品をシェア

pagetop