花嫁指南学校
3
陶子は久々に夜間外出届を寮監に提出した。婚約者の松若史朗と食事をするという理由であれば、寮監もこころよく彼女に夜間の外出許可を出した。
町の中華飯店でのディナーには松若だけでなく水川も同席していて、二人ともスーツ姿だった。円卓型のテーブルに三人は等間隔で座った。
「陶子さん、お久しぶりです。聞きましたよ。啓祐があなたに会いにいったそうですね。その節は彼が世話をかけました」
陶子が席に着くと松若が口を開いた。啓祐というのは水川の下の名前らしい。
「いえ、とんでもないです」
「今日は僕の大切な『友人』を陶子さんに紹介しようと思って、あなたをこちらへ招きました。そろそろあなたにも彼のことを話さねばと思っていたところだったんですよ」
「そうですか。松若さんも聞かれたとおり、水川さんとは学校の近くの喫茶店で少しお話をしました」
「そのようですね。啓祐はあなたに何か失礼なことを言いやしませんでしたか」
松若がたずねると、傍らにいる水川が「史朗さん!」と叫んだ。
「いえ。水川さんはあなたのことをとても案じていらっしゃいましたよ」
「そうでしたか。あなたは優しい人だからそんなふうに言ってくれます。あの時は彼も興奮していたのでつい失礼な態度を取ってしまいました。どうかご容赦ください。でも、これから僕たち三人は家族になるのですから、お互いに仲良くやっていきたいのですよ」
「ええ」
陶子は改めて同席している二人の男を見る。松若と一緒にいる時の水川は、普段身にまとっている心の鎧を脱ぎ捨て、実に柔和な表情を浮かべている。時折、彼は何ともいえず甘い目付きで「友人」の顔を見る。彼の女性的な顔立ちが今夜はいつも以上に優しく見える。この前と違って、陶子に対して敵意を剥き出しにしてくることもない。
松若が水川にフカヒレスープを取り分けてやる姿は、父親が息子を気遣う様子にも見える。彼らは恋人同士なのだけど、兄弟のようにも親子のようにも友達同士のようにも見える。世の中で一体どれだけの人が、長い人生の間に、こんなに心が通じ合う相手にめぐり会うことができるのだろうか。年齢も生まれた環境も異なる二人が自然の導きに引かれて出会ったのだ。陶子は二人の様子をまぶしい思いで眺めていた。
町の中華飯店でのディナーには松若だけでなく水川も同席していて、二人ともスーツ姿だった。円卓型のテーブルに三人は等間隔で座った。
「陶子さん、お久しぶりです。聞きましたよ。啓祐があなたに会いにいったそうですね。その節は彼が世話をかけました」
陶子が席に着くと松若が口を開いた。啓祐というのは水川の下の名前らしい。
「いえ、とんでもないです」
「今日は僕の大切な『友人』を陶子さんに紹介しようと思って、あなたをこちらへ招きました。そろそろあなたにも彼のことを話さねばと思っていたところだったんですよ」
「そうですか。松若さんも聞かれたとおり、水川さんとは学校の近くの喫茶店で少しお話をしました」
「そのようですね。啓祐はあなたに何か失礼なことを言いやしませんでしたか」
松若がたずねると、傍らにいる水川が「史朗さん!」と叫んだ。
「いえ。水川さんはあなたのことをとても案じていらっしゃいましたよ」
「そうでしたか。あなたは優しい人だからそんなふうに言ってくれます。あの時は彼も興奮していたのでつい失礼な態度を取ってしまいました。どうかご容赦ください。でも、これから僕たち三人は家族になるのですから、お互いに仲良くやっていきたいのですよ」
「ええ」
陶子は改めて同席している二人の男を見る。松若と一緒にいる時の水川は、普段身にまとっている心の鎧を脱ぎ捨て、実に柔和な表情を浮かべている。時折、彼は何ともいえず甘い目付きで「友人」の顔を見る。彼の女性的な顔立ちが今夜はいつも以上に優しく見える。この前と違って、陶子に対して敵意を剥き出しにしてくることもない。
松若が水川にフカヒレスープを取り分けてやる姿は、父親が息子を気遣う様子にも見える。彼らは恋人同士なのだけど、兄弟のようにも親子のようにも友達同士のようにも見える。世の中で一体どれだけの人が、長い人生の間に、こんなに心が通じ合う相手にめぐり会うことができるのだろうか。年齢も生まれた環境も異なる二人が自然の導きに引かれて出会ったのだ。陶子は二人の様子をまぶしい思いで眺めていた。